2002年01月27日

【004】「おなら」の噺(鈴木和雄)

image8.gif落語の中には人間が生命を維持するために必要な体の部分に関する噺が多い。例えば頭部は、樹の種を飲んでしまい、それが暫くたつと頭の頂に芽が出て立派な桜の樹になり、春になると桜花が咲いて花見に来る人が多くなり、うるさいので切り倒した所、そこが池になり、魚の釣りができ、これもうるさいと自分の頭の池に身投げする「頭山」や、お腹は例の「幇間腹」、若旦那に鍼をうたせた幇間がお腹を傷つけられる噺、談志の得意ネタの一つである「せんきの虫」もお腹の中の噺だ。足では「牡丹灯籠」のように幽霊は本来、足が無いのが原則だが圓朝が足を付けて噺をもりあげたもの等々、いろいろある。

 そして、シモの方と来たらお尻とおならである。お尻は「尻餅」ぐらいしか思い浮かばないが、おならの方は割合有りその大部分の噺が「おち」は失敗で終わるのが多い。人間の弱点を面白おかしく噺にまとめあげたもので、誰でも時と場所を選ばず放たざるを得ない人間の自然の生理をうまく表現しているものなのだろう。

ある商家に芋俵に紛れ込んで家の中に入れて貰い、夜を待って内側から鍵を外して仲間の泥棒を入れようとしたところが、夜の腹空き用にと、おさんどんが芋俵に手を入れた時、くつぐったくて思わず放してしまった「芋俵」。

お寺の住職が、「転失気」と言う言葉を知らず、医者に聞きに行かされた小坊主の一計のため、嘘を教えられて恥をかく噺。

目が悪くなった男が、調合してもらった目薬の説明書がうまく読み取れず、女房のお尻に粉薬をのせて、おならのお陰で目に薬が入れられた「目薬」。

医者の見習いが先生の代わりに往診に行って患者であるお嬢さんのお腹を無理に押しておならをさせてしまった「代脈」。

芝居で馬の後脚の役をやった男が前脚役の兄弟子におならをされ、後脚の彼がヒヒンといなないてしまう「武助馬」。

それに今はあまり聞くことが無い噺で、逃げ噺と言うそうだが、小噺的に出演時間が短い時にサーっとやって高座を下りる噺だそうで、円生がやった「四宿の屁」と言うものがある。四宿、即ち品川、新宿、板橋そして千住のそれぞれの宿場女郎が放ったおならに周りの人達が如何に面白おかしく反応すると言う噺である。

それに最近NHKの「名人寄席」で聞いたものだが、「将軍の屁」と言うのがある。徳川将軍が諸大名が居並ぶ席でおならをしたら御三家の大名がおべっかを言って「クサ木もなびく君のご時世」とか「ブ運長久」「天下泰ヘイ」と言い、他の大名どもも「ヘイ ヘイ ヘイ」と愛想を言ったという噺だ。

 いずれにしても、人が生きて行く上で、健康上どうしてもやらねばならないもので、時により、場所によって遠慮や我慢をせざるを得ない時もあろうが、これを健康的にしかも明るく扱って、人間の粗相を寛容な態度で許していこうよ、と言う噺は、これからも楽しんでいけるものであろう。

平成14年1月27日
posted by ひろば at 00:34| Comment(0) | TrackBack(0) | エッセイ
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