2003年01月01日

【023】もし愛犬が「おかえりなさい」と言ったら(鈴木和雄)

 皆さんの中には、犬や猫を飼っている方が多いですよね。外から家人が帰って来ると、犬は喜んで飛びついたり、猫はお帰りと言わんばかりに、体を擦り寄らせて来るでしょう。しかし、体で喜びや歓迎の意を表しても、それを口で表現する事は出来ません。私も、金魚を小さい池で飼っています。朝、餌をやろう池に近づくと足音で分かるのでしょうか、池の金魚が一斉に私の方に寄って来て、盛んに口をパクパクさせます。そこで餌を取り出して撒いてやると、金魚はものをも言わず餌を口に取り入れ「有り難う」とも「ご馳走様」とも言わず、池の下の方に泳ぎ去ってしまいます。それでも、金魚の姿を楽しみに毎朝餌をやっています。

 もし、犬や猫が言葉を発する事が出来て、前述した場合のような時に「お帰りなさい」とか「お腹がすいたよ」とか言ったらどうでしょうか。愛犬家や、愛猫家は、益々自分の猫や犬に、可愛さを覚えるのでしょうね。一方、猫はそうでもありませんが、犬は見知らぬ人が来た時は、警戒のため盛んに泣き続け、威嚇のためか、時には物凄い声を出すようになり、人間はそれで不審者がいる事を気が付くようになっています。番犬はそのための訓練を受け、人の役にたつようになっていますし、盲導犬や介助犬は、物言わずともそれぞれの役目を果たして、人間に尽くしてくれています。空港でも、麻薬探知犬が口ならぬ鼻を利かして、荷物を嗅ぎまわり、麻薬の有る事を知らせています。このように動物は、口をきけずとも人間と意を通わせる事が出来る場合が有りますが、大抵の動物は、口がきけない故に、人間が可愛がっても、それに反応してくれる事はなかなか有りません。

 もし、動物が口をきけたらどうでしょうか。落語の世界ではそれが出来るのです。後述「影法師」を演じた雀松さんが「落語は想像の世界です。お客さんの想像を膨らませて下さい。」と言っていますが、まさしくその通りです。

 皆さんが一番ご存じなのが狸。権兵衛さんをからかうつもりか、夜になるとその家を訪れ「ごんべい、ごんべい」と言うものだから、権兵衛さんに頭を剃られてしまい、翌晩また訪れて来て「今夜は髭をやってくれ」と言う噺。子狸が子供にいじめられているのを救ってやり、お礼にお札に化けたり、賭場の賽ころに化けたりする狸の札、狸賽。主人公といろいろ話し合って、主人公の言う通りの大きさの札になったり、賽になったりしている。「お若伊之助」の噺の終わりの方に出て来る狸が、伊之助に化けてお若と通じ、子までなすエロ狸が、お若と親密に話す様は噺ではそのせりふは出てこないが、口をきいています。

 狐も「王子の狐」に出て来るお玉ちゃんに化けた狐が、王子の料理屋にあがり、噺の主人公と懇ろに話しをしています。「七度狐」も、人間を騙すのにいろいろやっています。

 かつて枝雀さんがやった「猫」は、主人公と一緒にTVを見ていてその感想を述べたり、帰りの遅い主人公を案じたり、好きな魚の干物をなかなか買って来てくれないと、だだをこねたりしています。

 三木助さんの「鼠」では、甚五郎に彫られた鼠が、小さな旅籠である「ねずみ屋」で客寄せに働いていたが、前の大きな旅籠「虎屋」の彫り物に圧倒されて、動きが衰えていたのを、甚五郎にどうしたと言われて「虎屋」の虎の彫り物を猫と見間違えていましたと答える噺。

 そしてこれは動物では有りませんが「天狗裁き」では、天狗が夢を見ていないと主張する男に対し、何としても夢の話しをさせようと、執拗に迫る噺。そして雀松さんの演じた噺で、3.4年前のNHKの落語脚本コンクールで優勝したのもので「影法師」と言うのが有りますが「世の中つまらない、金もない、趣味もない、友人もない、何かしようと言う意欲もない」男とその影法師が、主体である男を説教して、男に気力を付けてやろうとして、陰ながら応援するから頑張れと励ます噺。

 また「金魚芸者」と言う小満んさんの得意な噺で、棒手振りの男が仕事帰りに水溜まりに落ちていた金魚を救ってやり、その金魚がご恩返しにと芸者になり「金魚」と言う源氏名でお座敷に出て、美しいので可愛がられ、唄を披露するが「並木駒形花川戸、山谷堀から一寸上がり、長い土手をば通わせ、おいらんお待ちかね」と歌うと「いい声(こい)だ」と褒められると「いいえ、金魚です」と答えると言う噺。

 皆人間以外のものと、対話する話しで成り立っている。所謂空想の世界であり、動物にも情けをかけなければいけないよとか、賭け事は余り嵌りすぎてはならないとか、盲目の恋はいい加減にしないと、とんだ事になると言う警告とか、人を騙せば、自分が騙される羽目になる言う事等を、口をきけない動物やものを通して、世の中の人に、笑いの内に諭しているのではないだろうか。


平成15年1月
posted by ひろば at 06:15| Comment(0) | TrackBack(0) | エッセイ
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