2005年01月02日

【047】噺の長屋の話(鈴木和雄)

馬風さんの前話の中に、ある選挙候補者の応援演説に行った正蔵(彦六)さんが、あるマンションの住宅団地に行った時、「長屋の皆さん、よろしくお願いします」と言って、住民の人達を驚かせてしまい、候補者は落選してしまったという話がある。住んでいる人達はマンションという一寸洒落た住宅に住んでいる積りだったのでしょうけれど、正蔵さんの目には長屋の階層化したものに過ぎないとしか映らなかったのだろうか。

 東京の落語に長屋の話はつき物である。主として江戸時代の庶民が住んでいた江戸下町の裏長屋のことである。この長屋の情景については先代の金馬さんが「お化け長屋」の噺の中で割合詳細に語っている。

長屋の空屋を物置代わりに他の住人達が使っているのを大家が咎めて使用料と言ったので、住人達はそうはさせじと、空屋を借りに来た希望者に大家の代わりと欺いて「差配」を紹介し、その差配と称した古狸の杢兵衛なる人物が空屋の間取りについて説明している。

いわく「間取りは入り口が一坪のくつぬぎで広い。吸い込みがあって掃除がしやすい。一尺の揚げ板があり、下駄入れの棚がある。額入れの1間二枚の障子があり、これを開けると、入り口が二畳、次が四畳半になっている。左側の障子を開けると台所があり、ここは広く、女が働きやすい。次が八畳で居間になっている、周りが縁になっていて、天井は高く、日当たりがいい。今は荒れ放題で草茫茫になっているが庭がある。便所は少し遠い」といっている。 そして住まわせる気は無いので、造作は付くが、権利金も敷金も要らない、更に店賃も要らないとお化けが出る前提を説明している。

しかし、これは今まで時々聞いてきた所謂裏長屋の標準である9尺(間口)2間(奥行)と比べると少々大きい間取りである。この9尺2間の一般的な間取りに対して、これよりも更に小さい6尺2間(3畳の居間)、6尺1間半(2畳の居間)もあったようだ。こうなると押入れが無く、夜具は部屋の隅に積み重ねて置くと言うような状態だったようだ。 逆に大きい方では12尺2間や15尺x15尺の間取りもあり、これは家主が住んでいたという。(S63年9月号「すずもと」より)

 東京両国の東京江戸博物館に行くと、この長屋の模型が置いてあり、当時の江戸庶民の住生活がよく判るようになっている。また、長屋の一室の実物大の展示がされており、おかみさんがお産直後で、産婆さんが赤子を産湯に入れていて、亭主がまごまごしている様子が表されている。この博物館の展示によると、部屋の間取りが判らないが、文政年間の大工の家族の店賃は年に百二十匁と記されている。また、東京江東区の深川江戸資料館にも実物大の三軒長屋が展示されている。

 このような長屋は江戸の各地にあったが、特に貧乏長屋と言われる所は神田の橋本町、江川町(今の東神田)、下谷山崎町(今の北上野)、四谷天竜寺門前(今の南新宿)、芝新網町(今の浜松町)であった。談志さんが噺のまくらに、よく正蔵さんの住んでいた下谷山崎町を指して、貧乏人の集まっていた町だと言っていたが、この山崎町は元禄初期に徳川家の黒鍬と言われる作事や普請を行う御家人に与えられていた屋敷があった所で拝領屋敷と呼ばれたという。(日本の歴史17 成熟する江戸 吉田伸之著)。

同書によれば、このような御家人は拝領地主とも言われたが、段々いろいろな役職の武士が持つようになり、上は御目付支配無役の者から御庭方にまで及び、更に武士ばかりでなく、大奥の女中、御用職人らに扶持の一部として与えられたものもあったが、売買は出来なかったという。

この屋敷の大半は80坪から90坪ぐらいで、間口15間〜17間、奥行14間ぐらいで、主として9尺2間の間取りの家を繋げた長屋を1〜2棟建て、店貸とし、家守(大家)を置いて管理させた。これには家持が住む場合もあったし、そうでないこともあったようである。これらの御家人達は店貸を賃借とし、店賃をもって、幕府から与えられた僅かな俸給(切米)の補助としていたという。また、「お江戸の意外な生活事情」中江克己著によれば貸家の持ち主には表店の経営者や職人の棟梁なども多数いたという。  

更に前記の吉田氏著では後にこの屋敷の売買が行われるようになると、大金持ちが買占めを図り、在方の金持ちが江戸に出てきて、所有するようになったり、三井越後屋が幕府との取引(為替御用)の担保に多数の町屋敷を買い集めていって、幕府に担保物件として提出したのだという。その金額は元禄9年(1696)までに3万7百両分までに及んだそうである。如何に多くの屋敷町を有していたかが判ろう。

平成17年1月
posted by ひろば at 06:41| Comment(0) | TrackBack(0) | エッセイ
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